1人で歩いた時は、心細くて不安だった人混みも凪原に手を引かれているというだけで、全然平気だった。
さきほど菜々達と歩いた道に出ると、中川達が挑戦していた射的の屋台が目に映った。
良いところを見せようとしてか、中川を含めた3人が意気込んで挑戦したものの惨敗だったことを思い出すと、おかしくてくすっと笑ってしまった。
「親父! これ全然倒れねぇーじゃねーかっ!!」
終いには屋台の店主に文句までつけていたっけ。
「あんちゃん、そりゃ、お前の腕の問題だぜ」
スキンヘッドにねじりはちまきを締めた強面の店主は、腕を組んで中川をひとにらみして野太い声で笑った。
菜々に慰められながら、しょんぼりしていた中川の姿がなぜか頭にはっきりと浮かんで余計におかしかった。
「…なに?」
凪原が私の笑いを見逃さずに不思議そうに私を見下ろす。
先ほどの出来事を話すと、同じようにくすくすと凪原も笑った。
「それで、有明はあの1番右のやつが欲しいんでしょ」
思わず目を見張った。
どうして分かったのだろう。
菜々達は左側の可愛いうさぎのマスコットを欲しがっていたけど、私はそれよりも1番右側の不機嫌そうな太っちょの猫のマスコットが気に入っていた。
どうして、という疑問を私の表情から読み取ったのか凪原がいたずらそうにくすっと笑う
「あの猫、ちょっとだけ有明に似てるなって思ったから。」