悠に背中を押されて、カフェテラスを飛び出してきたけど、なにかプランがあるわけでもなく、道沿いをあてもなくとぼとぼと歩いていた。
じんわりと汗をかきながら、しばらく歩いていると、初期設定以来面倒くさくて変えていないなんの変哲もない着信音が鳴り響いた。
『…はい、もしもし。』
「あ!咲希?!! どうなった?? 大丈夫だった?!」
咲希はなんて言ってる? 私にも変わってと、その声の主の周りから別の声が2つ聞こえる
それがなんだかおかしくて、くすりと笑ってしまった。
『…なんとかって感じ。凪原君にはちゃんと説明しないと、だけど。』
「そっかぁ〜、良かったぁ〜。ごめんね、私余計なこと言っちゃって…。」
菜々が心底安心したようにため息をつきながら謝ってきた。
『ううん。うちの悠がごめんね。色々心配してくれてありがとう。
…それで、なにか用?』
「そっれっがぁ!!」
声の主が変わる。横で携帯を横取りされてぷりぷりする菜々の声が聞こえる。
『なに、朝陽。もったいぶらないで教えて』
にひひ、と怪しげな笑い声を立てながら朝陽が楽しそうに答える。
「覚えてる? 今日の夜なにがあるか!」
記憶を巡らせてみたけれど、特に思い当たる節もなくてすぐに答えを教えてもらおうとしたとき、目の前で浴衣姿の小さな女の子がお母さんとお父さんに連れられて、カランコロンと小さな下駄を鳴らしながら歩いているのを見つけた。
『…お祭り。』
思わず声が漏れた。
「大正解!! それに今夜みんなで行こうってわけよ!」
朝陽が上機嫌に返事をする。きっと屋台で沢山美味しいものを食べようと、うきうきしているのだろう。
電柱に貼られたお祭りのポスターは、赤や緑の絵の具で描かれた花火でとても綺麗だった
地元の小学生の手作りのポスターは、1つ1つデザインが違っていて地元ではこの季節の風物詩の1つでもある。
電話を切って、まじまじとそのポスターを見つめていると、凪原と一緒に、花火を見ている自分を想像して頬が赤くなった。
みんなで行こうってわけよ!
…みんな。 みんなってどのみんな?
そう尋ねずにはいられなかった。
そして、期待通りに朝陽が答える。
もちろん、男どもを含めたみんなに決まってんじゃん!