…だとしたら、今まで見せてきたふとした瞬間の有明の仕草や表情はなんなのだろう。彼女はそういうことにはかなり鈍いから、男女の意識も、なんの特別な意味もなくああいう姿を俺以外の人にも見せているのかもしれない。
それでも、理科室での有明の赤く染まった頬が今でもずっと忘れられない。
あの時、中々こちらを見ようとしない彼女にもどかしくなって、少し強引に腕を引き寄せてしまった。思いの他、近くなってしまった互いの距離に、胸の鼓動がドクッと脈打ったのを今でもはっきり覚えている。
こちらを見つめる有明の瞳は、いつもは誰も近寄らせないような強い光を宿しているのに、あの時は、儚げな輝きを浮かべて艶やかに潤んでいた。
あの瞳に見つめられたとき、石になったように体が動かなくなった。
脈打った鼓動がより一層速くなるのが脳にまで響く音から分かる。
あんな無防備な有明は初めてで、驚いて力を弱めた隙に振り切って逃げられてしまった。
有明が手を振りほどいて、この手からすり抜けるときのあの切なくてどうしようもない気持ちは、もう自分が有明をどう思っているのかをはっきりと物語っていた。
この気持ちを有明に打ち明けることは、許されるだろうか。避けられている身で、よくもそんな無謀な考えを抱けるなと自分でも呆れてしまう。
それでも、きっとこの想いを留めておけるのは時間の問題だと、そう思った。
