5月にターゲットに指名されて以来、欠席の目立つようになった彼女だが、それでも週に1〜2回は必ず姿を見せていたのに、6月の下旬からこの終業式までの間に、1度も姿を見ることはなかった。
「完全に、オワったね」
バンッと銃を撃つ真似をして、朝陽がつまらなさそうに言っていたのを思い出す。
その銃口は、もちろん河口さんの席に向いていた。
結局、また何も変わらなかった。
変えようとして何か働きかけたわけでもないのに、本音では、河口さんでターゲット弄りが終わることを期待していた。
もう無理なんだ。
これが限界なんだ。
空想の世界みたいに、絶対的な正義なんて存在しないし、綺麗事も通用しない。それが現実。
「次のターゲットは…」
菜々の色付きリップでほんのり色づいた桜色の唇が弧を描きながら、教室を見渡す。
ごくり、と唾を飲む音が聞こえてくるような気がした。
この光景を何度目にしただろう。
もう、私にできることはない。
私はもう完全に、片足を菜々達の世界につけている。
河口さんは、私にとって最後の砦のような存在だった。
それが崩された今、
私が選ぶ道は
一体どちらなんだろう。
「うーん…、夏休み明けに発表しますっ♡」
今朝、そう言ってにっこり微笑んだ菜々と目があったとき、微笑み返した私もきっと同じような悪魔の顔をしていたと思う。
なにが私をそうさせただろう。
ふと、前側の席に座っている彼に視線を移した。
姿勢の良いスッとした背中を見つめていると、もうあれ以来彼とずっと話していないなとしみじみ思った。
冷静なあんた達でも喧嘩なんてするのね、と美帆にからかわれたとき、私はどんな顔をしていたんだろう。
まあまあ!咲希は可愛いんだから、他にも沢山良い男子いるよ!…ね!っと私の顔を見て慌てたように菜々が取り繕う。
それか、ほら!仲直り?の可能性もあるわけだし!そんな顔しないで!なんならあたしがあいつにガツンっと言ってやろうか?と朝陽までもが慌ててフォローに回る。
なんでもないから。
そう言ったときの、3人の困り顔は忘れられない。
このやりとり以来、あれだけからかっていたのに、3人は私の前で凪原の名前を一切出さなくなった。
私、一体どんな顔をしていたんだろう。