悪魔失格 – スクールカースト –

どのくらいそうしていたのか。

音は聞こえなくなっていた。


なんとかやり過ごしたかと、ふっと安堵して、気を緩めた瞬間、自分の傍らに何らかの気配を感じた。

しかもかなりの至近距離だ。



再び身を硬くして、たぬき寝入りを決め込んでいると、すっと何かが頬に触れる。

そしてそれは器用に私の頬に残った涙を拭っていく。



その優しい手つきに、その人物が一体誰なのか一瞬にして悟ってしまった。


その手が優しく私の目元を覆う前髪をかき分けると、目を瞑っていても視界が明るくなるのが感じられた。



明るくなった視界にそっと薄めを開くと、私の隣の丸椅子に腰掛け、頬杖をつきながらまじまじとこちらを見つめる彼がいた。


ぼんやりとした視界の中でも、こちらを見下ろす彼の顔が人並み以上に整っていることが分かる。


「…どうして、お前はそうやって1人で…」

独り言のように呟いた聞こえるか聞こえないかの微かな声。


「…俺では、お前を守るには力不足なのかな…、有明。」


真っ直ぐな眉を悲しそうに寄せ、なにもできなくてごめんと私の頬にそっと触れながら彼は呟いた。


違う、それは違うと叫びたくなったけれど、寝たふりをしてしまった今やそれははばかられた。


彼は私の涙の跡を例のいじめの件と結びつけたのだろう。



違うのに、違うのに。



今まで気づきもしなかった自分の中の醜い感情が、自分の中で日々大きくなる凪原の存在が、私を混乱させていると、そう言えたなら。



もはや、カーストやいじめの悩みよりも凪原の存在が大きく私の心を占めていた。



でも、そんなこと知られたくない。私は…、自分のこの感情を悟られて、彼に見限られるのが1番怖い。


手を伸ばせば届くほど近くにいるのに、どうしてこんなにももどかしくて、こんなにも苦しいんだろう。


頰に触れている彼の手の温度が、じんわりと伝わってくる。


この感情の正体なんてとっくに分かっているけれど、それを認めたところでどう扱っていいのかなんて分からなくて、未だに気づかないふりをしている。


それでも、認められない感情は、行き場を失い結局は自分を苦しめていた。



ただ、彼が自分のためにあの普段無表情な顔をこうして悲しそうに歪めることが唯一の救いだった。


私ばかりが混乱しているわけではない。理由は違えど凪原も私に心を乱されている。



もはや、仕掛けあいだなと思った。



互いに互いを翻弄し合うこのいびつな関係は、最後にはどんな結末に行き着くのだろう。

どんな結果になっても、凪原が心から笑っていてくれたらそれでいいと思っている。


私のこの気持ちが報われる日が来るなんて、そんな夢みたいなこと願ったりなんてしないから、だからどうか、あと少しだけ君に心配されることを許して欲しい。




それが私の願いなのかもしれない。