一応、力の強い日向と拓海が二人を押さえつけたおかげで、乱闘は収まった。
だが、涼平も太陽も和樹も、アザだらけで血まみれだ。
そんな所へ、ようやく先生が帰ってきた。相当疲れた顔をしている。
この悲惨な状況を見て、そんな先生の顔から更に血の気が引いた。
「なんて事なの?!」
先生が慌てて和樹に駆け寄る。
和樹は、最初に殴られて倒れた時に机の足で頭を強打したようで、少し血が出ていた。
「和樹くんッ?!大丈夫ッ?!」
先生が和樹を揺さぶる。
「せんせぇ…和樹、大丈夫ですか…?」
泣きながら先生に尋ねるのは、和樹に想いを寄せている沙也加だ。
「とりあえず、命に関わるような程じゃないから大丈夫よ…誰がこんな事をしたの?」
先生の声に、皆が涼平と太陽を見た。
先生も、その様子から察したらしい。
「あなた達なの?」
二人は顔を見合わせて俯いた。
もう大丈夫だろうと踏んだ日向と拓海は、二人を離した。
「何でこんなことしたの?ねぇ、どうして?…二人が話したくないなら、他の人でもいいわ。教えて。」
口を開いたのは、亜里沙だった。
亜里沙は、この一連の騒動の一部始終を話した。
「そうだったのね。…みんな、犯人探しはやめましょう?もう済んだことよ。どうせタダのイタズラなんだから、そんなことでこのクラスをめちゃくちゃにされてはいけないわ。」
そういえば、先生はまだあの紙のことを知らない。
私は、ずっと持っていたこの紙を先生に見せた。
「先生、その事なんですが、先程梓さんの机の中からこんなものが出てきたんです。」
「……なんなのこれは。イタズラにも程があるわ。…分かった。これは先生が預かっておく。誰か保健の先生呼んできてくれるかしら?私は職員室に行かなきゃいけないから」
先生はそう言って出ていった。
「あたし、保健の先生呼んでくるね。」
鈴花が立ち上がり、駆け出した。
それに反応し、咲が手を挙げて叫ぶ。
「待って、リン!私も行くッ!」
予測だが、二人とも若いイケメンの保健の先生に会いたいだけだろう。
こんな時に、なんて能天気なんだ。
確かにイケメンかもしれないが、私のタイプではない。
二人が出ていってから、沈黙が訪れた。
しばらくした後、隣のC組の倉田先生が来て、
「事件性が考えられるため、今日は授業無しになりました。準備ができ次第下校するように。」
と告げていった。
「やった、授業無しだってよ」
関係の無い一部の男子が喜んでいる。
と、そこへ、鈴花と咲が保健の先生を連れて戻ってきた。
保健の先生は和樹を少し診たあと、抱え上げて連れていってしまった。
その背中に、沙也加がしがみついた。
「先生ッ!和樹は…和樹は大丈夫なんですかッ…?!」
「命に別状はないよ。ただ、傷が残る場合があるかもしれない。」
「そんな…」
「まあ、君はもう帰りなさい。指示が出ているだろう」
沙也加は半泣き状態で戻ってきた。
どれだけ和樹のことが好きなんだか。
「恋桃、帰ろう」
そんなことを考えていると、後から絵里香に声をかけられた。
「ああ、エリ、ちょっと待って」
私も急いで荷物をまとめ、絵里香と共に教室を後にした。