教室に戻ると、何だかさっきより騒がしくなっていた。
皆、梓の机の周りに集まっている。
「あっ、恋桃ちゃん!アズ、大丈夫だった?」
亜美と同様、梓と仲がいい亜里沙が心配そうに聞いてくる。
「分かんない。保健の先生に君は教室に戻りなさいって言われちゃったから。…ところで、みんなどうしたの?」
「ああ、そうそう。さっき西村の椅子が落ちてきただろ?でさ、りょうが、あまりにも落ち方が不自然だったって言い出して。んで、みんなで探ってたら、襟川が西村の机の中からこんなの見つけたんだよ」
恵士が相変わらず大きな声で教えてくれる。
その手には、一枚の紙が握られていた。
「何それ?ちょっと見せて」
私は恵士から紙を受け取った。
そこには、こう書かれていた。

【皆様こんにちは。この度は、“紅のパーティ”にご参加いただき、誠にありがとうございます。さて、記念すべき第1回の生贄に、西村 梓さんが選ばれました。おめでとうございます。さあ、第1回となる今回は、女子学級委員である梓さんに、盛大に盛り上げて頂きましょう。西村 梓さん、私がご用意致しました幾つかの仕掛けに耐え、頑張って生き延びて下さいね。そうですよ、必ずしも死ぬとは限りません。生きるか死ぬかは、貴女の運次第ですから。では皆様、この後も、“紅のパーティ”を存分にお楽しみくださいませ。 “紅のパーティ”主催者より】

「…どういうこと?」
私の言葉に、いつもはあまり話さない芽衣も頷く。
「さあ…。でも何だか怖くない?イタズラにしては凝りすぎてるっていうか…」
芽衣の隣にいた美月が口を開いた。
「そうよね。きっと、さっき椅子が落ちたのも、偶然ではないと思う。こんな事ができるのは──」
「──このクラスの人物だけ。それに、頭の回転が早いヤツじゃないと無理だね。」
美月の言葉を、美月の双子の兄である太陽が引き取る。
「そーゆーお前らも頭いーじゃん」
バリバリ体育会系の洸太がつっこむ。
そうだ。美月も太陽も定期テストでは常に上位にいる、秀才なのだ。
「確かにー。二人が犯人なんじゃねー?」
お調子者の涼平が言うと、次々に皆が賛同し始めた。
「違う!私は犯人じゃない!」
美月が叫ぶ。
「俺も違う。そういう涼平こそ犯人なんじゃないのか?」
太陽に至っては、涼平を犯人呼ばわりまでした。
「はぁッ?!罪を着せるつもりか?低次元め!」
涼平も負けじと言い返す。
周りでは、やめなよ、と言っている人もいれば、やれー!などどはやし立てているバカな男子もいる。
「ふざけんなッ!犯人じゃねぇっつってんだろッ!俺が低次元ならお前は人間じゃねぇ!」
「お前らやめろ!言い過ぎだ。」
そのとき、和樹が間に割って入った。
そんな和樹に向かって、涼平が拳を振り上げる。
「邪魔なんだよッ!学級委員だからって気取ってんじゃねぇ!俺と太陽、二人の問題なんだよ!勝手にいい子ぶって首突っ込んでくんじゃねーよ!」
ボコッ!
和樹が倒れ込む。その口からは血が出ていた。
数人の女子がキャーッと叫んだ。
「俺も前からお前のこと気に入らなかったんだよ!俺より頭悪いクセに学級委員って立場利用して俺らを支配しやがって!調子乗ってんじゃねーよ!」
太陽がそう言って、床に倒れた和樹を蹴飛ばした。
いつの間にか、二人の怒りの矛先は和樹に向けられていた。
「うぐっ」と和樹の情けない声が聞こえた。
怖くて泣き出す女子もいた。
教室が荒れていく。
2年B組の絆が壊れていく。
私は人間が恐ろしくなった。