絵里香はさっきとは別の場所で拭いていた。
「こんな所にいたんだ」
絵里香の横にしゃがんで、まだ赤く汚れている箇所を強めに擦る。
「さっきの所は綺麗になったからね」
「そっか」
その時だった。
私達のいる所の丁度真横にあった梓の机から、上に上げていた椅子が突然落ちたのだ。
それも、その下で床を拭いていた梓にむかって。
下にいた梓は到底気づくはずもなく。
危ないと叫んだ数人の声は、教室内に虚しく響き渡るだけだった。
ガンッ!
「ひゃっ…」
椅子は梓の額に直撃し、横に転がった。
私は反射的に立ち上がり、梓の元へ駆け寄った。
皆もおなじだっただろう。
「梓ちゃん、大丈夫ッ?!」
梓は額を掌で抑えてこっちを見上げた。
その指の隙間から、赤いものが見えた。
血だ。
私は、梓の横に転がっていた椅子を起こしてどけ、その傷を見た。傷はそう深くない。
梓を囲むように集まってきた他の皆も、梓の傷を食入るように見つめている。
「おい!保健委員!西村を保健室に連れていくんだ!」
和樹にそう言われ、保健委員の私は立ち上がった。
「わかった」
私は梓の肩に手を回して支えながら、教室をあとにした。