皆自分の椅子を机の上にあげて、その下を拭いていた。
私と絵里香も、濡らした雑巾で床を丁寧に拭く。
幸い、使われていたのが水性のペンキだったため、少し強めに擦るだけで綺麗になった。
しばらく皆で拭いていると、担任の加藤先生が来た。
勿論、先生は絶句。
「あ、百合先生!」
誰かが叫んだ。
私達B組の生徒は、先生のことを親しみを込めて下の名前で呼ぶ。別に先生はそれを怒ることもない。
ちなみに先生は国語教師だ。
しばらくの沈黙があった後、先生が叫んだ。
「これは何?誰がやったの?梓さんは無事なの?どういう事か説明して!」
先生がくる直前に登校してきた梓が立ち上がり、淡々と説明し始めた。
「百合先生、落ち着いて下さい。私はなんともありません。先に来ていた人曰く、誰がやったのか分からない状態です。最初に来たのは千鶴さんで、その時にはすでにあったそうです。誰かのイタズラだということで、今みんなで掃除をしていました。」
「…そう。分かったわ。とりあえずみんな無事ならそれでいい。先生は他の先生方に連絡をしてくるから、そのまま掃除を続けていて。」
先生はそう言い残して、教室を出ていった。
また皆掃除を再開する。
「恋桃、私さ、これイタズラじゃない気がする。」
先程より落ち着きを取り戻してきた絵里香が私に言う。
「私も。でも、誰が?」
「樹はああ言ってたけど、千鶴ではないと思うんだよね…」
「確かに。…ちょっと雑巾洗ってくるね。」
私は立ち上がり、廊下の流し場へ向かった。
流し場には、幼馴染みの日向がいた。
私も日向の隣に立ち、蛇口をひねった。
「あ、恋桃」
日向が私に気づき、話しかけてきた。
「日向。…雑巾、真っ赤になっちゃったね」
流れ出る水で雑巾を濡らす。
雑巾を通って落ちていく水は、赤く染まっていた。
「だな。こりゃ、洗っても落ちないぜ。」
チラリと日向の手元を見やると、日向の雑巾もまだ真っ赤だった。
「ところで、日向は誰がやったと思う?」
「さあな。でも、犯人が誰かなんて推理すんのはやめようぜ。やったヤツが可哀想だ。そんな追い詰められたら、この場に居づらくなっちまうだろ?」
「はは、日向らしいね。そんなんだからモテるんだよ」
そう。日向は小学校のときからのNo.1モテ王子だ。
幼稚園から一緒の私からしたら、そこまでカッコイイとも思えないけど。
「モテねぇっつの!俺的には恋桃のほうがモテそうだけど。可愛いし。んじゃ」
日向はそれだけ言って教室に戻っていった。
何が『可愛い』よ。
日向はお世辞が過ぎるんだから。
私も雑巾を絞り、教室に戻った。