ある朝、クラスで唯一の友達である絵里香と共に教室に入ると、私は目を疑った。
「何、これ」
教室には、真っ赤なペンキのようなものが撒き散らされていた。壁にも、天井にも、机にも。
ふと前の方をみると、黒板の前に人だかりが出来ている。
B組の人だけでなく、他クラスの人まで。
私達も恐る恐る教室に入り、人だかりに加わった。
が、背の低い私は見えない。
「エリ、どうなってた?」
私とは正反対で背の高い絵里香に聞く。
絵里香の顔は真っ青だった。
「エリ?」
絵里香が何も答えないので、私は仕方なく、ちょっといいかな、と人波をかき分けて黒板の真ん前に出た。
そこには、教室に撒き散らされていたものと同じペンキのようなものでこう書かれていた。
『今週の生贄は、西村 梓に決まりました。』
殴り書きされたその文字は、ところどころ滴っていた。
「これ…どういうこと?」
私の問いに、隣に立っていた千鶴が答えた。
「分かんない。来たのは私が最初だけど、すでに書かれてたよ」
その千鶴の発言に、皆が一斉に千鶴の方を向いた。
「伊藤が最初に来たのか?じゃあ伊藤が犯人なんじゃね?」
樹が言う。きっと、樹だけでなく、皆がそう思っただろう。でも私はそんな単純な話じゃない気がする。
「でも、なんでアズなんだろ?」
梓と仲がいい亜美が言った。
確かに。
梓はB組の女子学級委員で、責任感があって、女子とも男子とも仲がいい、クラスの人気者だ。
梓に嫌がらせをするような人は、少なくともこのクラスにはいないと思う。
私は絵里香の所に戻った。
怖がりの絵里香は、今にも泣きそうな顔をしている。
「エリ大丈夫?」
「…うん」
辺りを見回すと、さっきよりも人が増え、騒がしくなっていた。
当の梓はまだ来ていない。
「みんな、静かにして。どうせ誰かのイタズラだ。とりあえず手分けして掃除しよう」
男子学級委員の和樹が、皆に聞こえるように大声で言った。
元は団結力のあるクラス、和樹の言葉に、一人、また一人と雑巾やブラシを取りに行き始めた。
ポロポロと人だかりが崩れていく。
私と絵里香も雑巾を取りにベランダへ向かった。