結構意志が固いんだな、わたし。

だって胸に全然響かない。わたしの中に崇憲の存在が入ってこない。


今頭の中に浮かぶのは、久しぶりに見た龍成の顔。

自由になれたはずなのに、どこか寂しそうだった龍成の顔。


「華乃、前の俺は忘れて…」
 

─その時、ポツポツと雨が降ってきた。


「わたしも崇憲を忘れるから、崇憲もわたしを忘れて。さよなら」


崇憲の手から逃げ、わたしは通りに出てタクシーを拾う。

雨はすぐさま本降りになり、タクシーの中は雨音に包まれた。


そんなに濡れる前で良かったな。

ていうか散々な誕生日だったよ。楽しかったのに、終わり悪ければ全て台無し…。


わたしのタイミングの悪さって、前世の因縁とか?ここまでくると呪われてるよ。笑うしかない。


会いたかったけど会いたくなかった。それもこんなタイミングで…。

わたしと龍成って、どうやっても綺麗には交わらないんだね。


「……。」


タクシーの窓にとめどなく流れる雨。

わたしの涙の代わりに雨が降っているみたいだった。