佐倉小花の幽愛白書

 
 というより腹痛を訴えた生徒が弁当片手に教室を出て行くことに何の疑問も抱かなかったのか現国の山下よ。


結局、彼女は私が弁当を受け取るまでドアの前から離れてくれなかった為に甚だ不本意ではあるものの昼食は佐倉と過ごす事になった。


ちなみに味についての感想を求められたのだが嘘の駄目出しが出来ないほど美味かったので正直に伝えたところ、彼女は無表情で「うれしいです」とだけ答えた。


更に時は流れて放課後。


部活動に所属していない彼女は再び理科準備室にやってきた。


「先生。何かお手伝い出来る事はありませんか?」


「ありません。放課後にやることがなければ早く下校しなさい」


 彼女の申し出を私は即断る。


「いいえ、やることならばあります。先生のお返事を聞くことです」


 その一言に私は面倒臭さを隠すことなく嘆息し、がっくりと肩を落とした。


「佐倉さん。先日は聞けなかった事ですが、もしいたずらでないのなら私のどこに惹かれたのか教えてもらえませんか?」

 
今まで生きてきた人生の中で、自分という人間がいかに魅力の無い男かという点については耳が腐るほど聞いてきた。