「やっぱり、君の紡ぐ言葉が好きだと思った。君の書く物語を、ずっと隣で読んでいたい。物語を書く君を、ずっと、隣で見ていることができたらいいなと思ってる」

 彼は、今、どんな表情をしているだろう。それが気になり、私は彼の腕の中でもぞもぞと動き、半回転すると、彼と向かい合った。

 真っ直ぐな眼差しで私を見た彼は、今までにない程真剣な表情をしている。私は、ごくり、と唾を飲み彼の次の言葉を待った。

 彼は、「ああ、やっと言える」と呟くように言って笑うと、続けて口を開く。そして。


「杏、結婚しよう」


 と、私の左薬指に触れる。

 私の薬指には、きらりと婚約指輪が輝いていた。


「……はい」


 嬉しくて、嬉しくて、瞼を下ろした瞬間、暖かな道筋が頬に出来上がる。


「やっと、言ってくれた」

 そう言って笑うと、彼も「作品が完結するの、ずっと待ってた」と言って笑う。


 ああ、私、きっと今、世界で一番幸せだ。

 如月杏子としても、作家の沼川千草としても。きっと、一番に幸せなんだろうな、なんて。柄にもなく、そんなことを考えてしまう。


 30年以上を生きてきて、知ったようにいくつもの恋愛を綴ってきた。

 だけど、本当は恋愛なんて知らなくて。いつも、理想や人から聞いた恋愛論だけを文章にしてきた。


 だけど、私は今、やっと本当の恋愛を始め、本気の恋愛を知ることができたような気がする。

 

「杏」

「なに? 徹」


「愛してる。世界で一番に」



 私は、今目の前にいる彼と始めたこの恋愛を、ずっと、大切にしたい。

 そして、ずっと、ずっと、途切れてしまわぬよう、これからも紡いでいきたい。



「私も、愛してる」



 これが、担当編集者として私の前に突然現れた少々難あり(?)な彼と、私の、極上に甘い本当の結末。







*終*

_