「っていうのは、少し冗談だけど。恋愛に臆病になっていた君が、あの日、頑張って好きだって伝えてくれた事も俺の自信になってたから。心配する必要は無かったかな」

 沢木さんと話すと言った私を引き止める事はせず、すぐに首を縦に振り、今日、沢木さんと話した事にも触れてこなかったこと。

 彼は私に興味がないのだろうか、とか、何も思わなかったのか、とか、色々考えた。

 だけど、今の彼の言葉を聞いた瞬間、私は、嫉妬という形で愛を感じるよりも、ずっと嬉しくて泣いてしまいそうだった。


「……私、岩崎さんを好きになって良かったです」

 ぽろっと、殆ど無意識のうちに溢れた言葉。私の言葉を聞いた岩崎さんは、目を丸くして驚いていた。

「ちょっと、今のはずるい。嬉しすぎて困る」

 溜息まじりに言った彼が、握っている私の手をゆっくり引いた。私は、引き込まれるようにして彼の胸に顔を埋めると、自然と口角が上がった。


「そういう心臓に悪いこと、あんまりしないで欲しいな。早く、俺だけのものにしたくなる」


 ああ、好き。私、本当にこの人のことが好きだ。と、改めて感じる。


「早く、してください。私は岩崎さんのものになる準備はできました」


 きっと、この人となら私はどんな事も乗り越えられる。


「早く、はこっちの台詞。早く書いてよね。ハッピーエンド」

「な、ハッピーエンドに拘らないって言ったじゃないですか!」

「拘らないけど、俺は読みたいの。沼川さんの書くハッピーエンドをさ」

「もう。本当、自分勝手な人」


 二人、顔を見合わせて笑い合う。


 きっと、この先、笑顔だけではいられないこともたくさん起こるだろう。

 きっと、涙が溢れて、どうしようもない感情だってまた湧いてくるのだろう。

 だけど、それでも、最後にはこの人とこうして笑い合いたい。笑いあえれば、それでいい。


 それが、私にとっての幸せの結末だ───。