難あり編集者と極上に甘い結末


 慣れないヒールにドレスを纏う身体に肌寒さを感じつつ、タクシーに小さく揺らされること数分。会場であるホテルに着いた私と岩崎さんは、控え室へと足を運んだ。


「沼川さん。時間になったら、また呼びに来るから」

「はい。分かりました」

 控え室の椅子に腰かけた私にそう言った彼。仕事のスイッチが入ったのか、ちゃんと私のことはペンネームで呼んでいた。

 私は、控え室を後にする岩崎さんの背中を見送り、テーブルの上に置かれているお茶に手を伸ばした。

 お茶を乾いた喉に流し込み、ぼうっと真っ白の天井を眺める。

 ふと、書きたいシーンやストーリーがいくつも浮かび、私は急いでカバンからいつも持ち歩いているノートとペンを取り出した。

 つらつらと、思い浮かべたシーンやストーリー構成を忘れないように書き出す。

 ここ最近、私はよくこうしてノートにメモを取っている。小説を書き始めるようになってから、ずっとこのノートは使っているけれど、こんなにも頻繁にこのノートを開いているのは初めてかもしれない。そのくらい、今の私は書きたいもので溢れていた。