「何言ってるんですかー、青春とか恋愛に年齢なんて関係ないですよ」

 彼が、くるりと目を大きくする。まるで、私の言っていることが間違っているかのように、そう言い張った。

「そうかな」

「そうですよ。絶対に年齢なんて関係ないです。少なくとも俺はそう思ってますし、歳を重ねても良い恋愛したり友達とたくさん遊んで青春したいです」

「そっか」

 須賀くんは、にこにこと口角を上げて笑っている。そんな彼の笑顔は、明るい未来しか見ていない。本当に、夢であふれた幸せそうな表情だった。

 私だって、このくらいの年齢の頃は、まだ未来に夢を見ていたし、こんな風に三十路になっても独身でいるなんて思ってもみなかった。

「はい!当たり前だけど、人生って一度しかないし、ちゃんと楽しみたいんですよね」

 ああ、大人って、どうしてこうも不自由なんだろう。

 彼を見ていると、尚のことそう思う。世間体ばかりを気にして、後先を考えすぎる。自らが動いて何かを掴もうとする。それが、この歳になると恥ずかしいことに思えてくるのだ。だから、大人は自由に動けなくなる。

 本当に彼の言う通り、人生は一度きりしかないと言うのに。


「すみません」

「あ、はい!すみません。ありがとうございます」

 レジカウンターの向こう側から私に向かって声が掛かった。私は、慌てて返事をすると、カウンター上に数冊置かれていた雑誌を手に取った。