難あり編集者と極上に甘い結末


 またひとつ、大きく溜息をこぼす。

 空になったコップをシンクに置いてデスクに戻ろうとしたその時、ピンポーンというインターホンの音が部屋中に鳴り響いた。


「はーい」

 ひとまず返事をした私は、体をくるりと半回転させて玄関に向かう。鍵を開け、ドアを開くと、そこには岩崎さんがいた。

「えっ」

 何の連絡も、前触れもなく突然現れた岩崎さんに私の心臓はこれでもか、という程に跳ねた。

「こんにちは」

 お邪魔します、と付け足して部屋に上がる彼は、いつも通り、けろっとした表情をしていた。

「い、岩崎さん。ちょっと待ってくだ……」

 彼は、昨日のことなんて忘れているのだろうか。そうだとしたら、私だけこんなに考えてバカみたいだ。

 本当に行動や思考の読めない彼のことを考えながら、私は彼を追いかけるようにしてリビングに入る。すると、デスクの前に立ってモニターを覗いている彼が、私に背を向けたまま肩を揺らした。


「昨日は、すみませんでした。今後は迷惑をかけないよう努めますので、仕事のパートナーとしてよろしくお願い致します。……って。これ、俺に送ろうとしてた?」

 岩崎さんが振り向いて笑う。私は、はっとしてデスクを身体で覆い隠す。だけど、全て読まれてしまった後だ。こんな行動は意味がない。

「全部読んだんだから、そんな事しても仕方ないでしょ」

「分かってます、けど……」

 彼に御最もな言葉を投げられ、更に恥ずかしくなる私は、ゆっくり身体をモニターから離すと、バックスペースキーを長押しして文面を消した。

「あ、消しちゃうんだ」

「はい。消しました」