どくん、どくん、と苦しく忙しなく胸の鼓動が高鳴る。私の胸は、何かに怯えているのか。それとも、何かに胸をときめかせているのか。自分でもよく分からない。
そっと、岩崎さんの指先が私の頬に触れる。大きく長い手が私の左頬を包むと、親指の先は何かをすくうように目の下を撫でた。
「泣いてる」
「え……?」
はっとして、頬に触れる。何故か、頬には複数の道筋が出来ていた。暖かい雫が私の手に移り、姿を消していく。私は、自分が泣いていたことに今気づいた。
「どうしたの」
「……別に、何もないです」
顔を覗き込む岩崎さんを避けるように窓の方に顔を向ける。彼は、指先をもう一度私の頬に当てると、そのまま、背けていた私の顔の向きを自分の方へと変えた。
「何もないって顔じゃない。何かあるなら言って」
また、目が合ってしまう。離そうとしても離れない彼の指先と視線。目頭はじんと熱くなり、気づけば視界は涙で滲んでいた。
何が原因で涙が出ているのか、自分でも分からない。止めどなく流れる涙は、私の頬から彼の手までもを濡らしている。
彼の手を取り、引き離そうとする。すると、彼はその私の手をぎゅっと強く握り、自分の胸へと私を引き寄せた。
彼の胸にすっぽりとはまってしまった私。抱きしめられた身体がとても優しくて、暖かくて、また更に大粒の涙がこぼれ落ちた。
「離して、ください」
「どうして?」
「だって……」
「多分、俺が泣かせてるから。泣き止むまではここにいて」
「多分、って」
ここには貴方しかいないんだから、普通に考えれば貴方が原因に決まってるでしょう。……と、本来なら言い返したいところだけど、私自身、何が原因で泣いているのかが分からない。
私は、その言葉を胸の奥に飲み込むと、岩崎さんの胸の中でそっと瞼を閉じた───。

