難あり編集者と極上に甘い結末



「シートベルトはした?」

「はい。大丈夫です」

「ん。それじゃあ、出発します」

 彼の一言と共に車が走り始める。

 いつも部屋に二人でいるけれど、この狭い密室に二人でいるのは明らかにいつもと違って、私の胸の鼓動は不覚にもいつもより早く脈を打っていた。

「沼川さん」

「はい」

「バイトのシフトなんだけど、随時連絡してもらっても良い?」

「え? はい。良いですけど……すみません。ひょっとして、今の感じだとシフト入れすぎですか?」

 執筆や書籍化が決まった時、影響がでない程度ならシフトは好きなように組んでいいと岩崎さんに言われた覚えがあった私は、今の彼の一言に、少しだけ申し訳なさを感じた。

「いや、そうじゃないんだけど。ただ、シフト把握してた方が何かとこっちも助かるかなと思って。メール無視されても手が打てるしね」

 彼は、悪戯に口角を上げる。

「だから、無視してないです!何度言ったら分かるんですか」

 そう反論する私の横でハンドルを握る彼の横顔は、堪えきれず笑みが溢れている。

「沼川さんって、面白いよね」

「……別に今、何も面白いこと言ってませんけど」

 くすくすと笑い続けている彼に、少しトーンを下げた声で不機嫌そうに返す。すると、彼は更に肩を震わせて笑った。