「すみません」
指摘部分が多くてこんな時間まで、と小さな声で付け足す。
「え? 謝る必要ないよ。これが俺の仕事だし、好きでここまでやってるとこあるしね」
彼は、きょとんとした表情でそう発したあと「お疲れ様」と言い、口元に柔らかな弧を描く。
作品の指摘をするときはずばずばと鋭い言葉も放つくせに、意外と優しいんだ、なんて思いながら玄関に向かう彼の後ろをついて歩いた。
「まだ四章以降の修正残ってるし、また連絡します」
「はい。……あ、あと。私、明日からバイト始めるので。こっちの仕事に支障の出ない程度のシフトにするつもりですけど、念のため伝えておきます」
「そうなんだ。飲食店とか?」
「いえ、コンビニです」
「へえ、そう。了解」
岩崎さんは、それほど興味のなさそうな返事をして小さく頷く。
「夜遅いので、気をつけてください」
ドアノブに手をかけた彼の背中に、そう声を掛ける。すると、彼はくすくすと肩を揺らしながらこちらを振り向いた。
「それ、男が女に言う台詞でしょ」
逆だよ、逆。と、笑った彼。私は、そんな彼が思う存分に笑い終えるのを待った。
何がそんなに面白かったんだ、と思ったけれど敢えて突っ込むことはせず、彼が笑い終えると、玄関先まで見送った。

