「良かったら、どうぞ」
そう言うと、彼は重たそうな瞼を開き「ありがとう」と柔らかく笑った。
「沼川さん」
「はい」
オレンジジュースを一口飲んだ彼は、テーブルの上にグラスを戻すと、グラスに視線を向けたまま私を呼んだ。
「やっぱり、ハッピーエンドに拘るのはやめようか」
「え?」
「会社の意向としても、俺の個人的な希望としても、君の創り上げるハッピーエンドな恋愛小説を期待したいところだけど、不自然な結末になるならそれは違うし、ひとつの目的に執着することで〝君らしさ〟が欠けていく気がするんだよね。それなら、沼川さんらしく、沼川さんの書きたい物語を、好きなように書くべき。読者の意向も大事だけれど、それと同じくらい君の意向も大事だ」
岩崎さんの言葉に、私は驚いた。ハッピーエンドに拘っていた彼が、まさかこんなにも早くそんなことを言いだすとは思わなかったのだ。
「ただ〝君の好きなように〟とは言っても、初めに言った君に足りていない部分は、ちゃんと補ってもらう必要があるけどね」
彼の言葉に、私は黙って一度だけ頷く。すると、彼は「よし、それじゃあ再開しますか」と言いながら立ち上がり、またパソコンの前に立った。

