「はは、やっぱり沼川さんって真面目ですよね。もちろん、良い意味で」
私の一言に知代さんが笑う。
「昔からそうですよね。頑固な性格かと思いきや、この仕事に対してはいつも真面目に向き合ってて、私より一つ下だけれど、本当にそういうところ、ずっと尊敬してました」
「知代さん」
柔らかな弧を描いている彼女の口元。それを見ながら、私は少し昔のことを思い出した。
知代さんが担当になり、最初こそ心を開けず他人行儀だった私だけれど、知代さんの面倒見の良さと気の合う性格に甘え、私は我儘ばかり言っていたような気がする。自分の意見を曲げるのが苦手で、嫌で、何度も知代さんを困らせたりしたな。
「今までどおり、小説家として仕事に真面目に向き合って、色々な人の意見を取り入れていく姿勢は変えないでいいと思います。だけど、自分の意思まで曲げる必要はないです。こうしたい、って思うことは、曲げずにちゃんと伝えてください。岩崎さんもきっと分かってくれるし、そうすることで良い作品が創り上げられると思いますよ」
優しく、真っ直ぐな眼差しでそう言った知代さんの言葉に、私は「ありがとうございます」と返すと、笑って深く頷いた。

