難あり編集者と極上に甘い結末



「もう、本当に憂鬱です」

 翌日、最寄駅前のカフェに知代さんを呼び出した私は溜息まじりにそう発した。

「いや、なんか、それはそれで面白いですね。本当に噂通りなんだ、岩崎さんって」

 昨日のことを話すと、知代さんはまるで他人事のようにクスクスと笑う。私は、そんな知代さんのリアクションを見て眉間にしわを寄せた。

「笑い事じゃないんですけど」

「あはは、ごめんなさい。でも、ここだけの話、岩崎さんが担当をもった作家さんって出世するんですよ。優しいのに、しっかり思ったことを伝えるとか、適切な指示をくれる、とか。まぁ、それ以外にも理由があるのかもしれないですけど、実際、作家の方からも評判だったらしいです。ああ、私の時よりも沼川さんがもっと有名になっちゃうかも」

 なんだか寂しいです、と言った知代さんの言葉を鵜呑みにすることはなく、私は苦笑いを浮かべた。

「そんなことはないと思うけど、ただ、本当に的を得たことを言われるから、うまく言い返せなくて。すごく悔しかったんですよね」

 視線を下に落とし、目の前にあるアイスカフェオレを口に運ぶ。

 昨日は、あれからずっと岩崎さんの言ったことについて考えていた。確かに、ネットでの評価を見る限り他の読者の方も彼と同じようなことを言っていた。

 誰にでも書けるような、硬さのあるありきたりな文章。ありきたりな表現や心理描写を並べるだけでは、共感は得られない。

「やっぱり、あの人に素直に従っていくしかないんですかね」

 私は、溜息混じりに呟いた。

 正直なところ、担当になった人とはいえ、殆ど初対面の人にあれだけのことを言われると少しは腹が立つ。だけど、彼は全く間違ったことはたったの一つだって言っていない。それなら、私は意地を張らずに彼の言うとおりにすべきなのだろうか。