「ねえ、今日まーくんの家泊まりに行ってもいい?」

これはほんの気まぐれだった。学校で前の席に座っている彼が驚いた顔をしてこっちを見た。そんな彼の顔を見て、言ってしまってから思うのも遅いのだが途轍もなく軽率で下品な一言だったと反省した。まーくんなるその人物 “木宮 真緒(キミヤ マオ)” とはそこまで親しい間柄でもなかったが仲が良いか悪いかで言ったら良い方で、好きか嫌いかで言ったら好きな方だった。そのくらいで、軽いノリで、と軽蔑する人もいるだろうし気持ちもわかる。が、言ってしまったものはしょうがない。

「別にいいけど...。」

わお、と思わず声がでかけてしまった危ない危ない。木宮真緒の返事に自分で言い出しといてなんだが何とも言い難い感情になってしまった。自分を棚に上げすぎているのは重々承知ではあるのだが(こいつ、遊び慣れてやがる!)なんて思ってしまったくらいだ。木宮真緒が女子に人気であることは風の噂で知ってはいたが、知っている限りでは彼女がいるところを見たことがなかったから忘れていた。少しの動揺と後ろめたさに見て見ぬ振りをして「じゃあ今日楽しみにしてる」なんて言い残し私は早足で学校から立ち去った。あ、やべ、まーくんの家どこにあんだか知らないんだった。