「…っ」








舞音くんの家の前まで来る。








正確には、里倉先生の仕事場








と言うべきか…








インターフォンを押そうとする。








手が震えて、なかなかボタンが押せない。








けど








前に進むって、決めたんだ。








押さなきゃ、何も変わらない。








よしっ!ひと思いにッ!








そう思って、ボタンを押そうとした時だっ








た。








「何してるの?」








落ち着いた、低めの声が私の耳を撫でる。








この優しい声の主を、私はよく知っている。








「里倉、先生…」








「どーも。水元さん。」








水元さん。








その呼ばれ方に








違和感と








同時に、悲しみを感じる。








もう、前のように「桜」と呼んでくれない。








「…そんな、悲しそうな顔しないでよ…」








「え…?」








舞音くんは小声で何かを言った。








私の耳には届かなかったが。








「ま、立ち話もあれだし、入ってよ。」








「は、い…」