夜が明ける前の空を前にして
死にたいと思った。
どうしてあたしだけこんな目に遭わなきゃいけないんだろう。
何が間違ってしまったんだろう。

学校なんて行きたくない。
親に話しても無理だった。
ものを隠され殴られていつも一人ぼっち。
仲良かった子もまるでテレビ越しから見てるようで
何もしてくれない。

見て見ぬ振り。
直接じゃないから関係ない。
私たちのところにこなければそれでいい。
主犯グループ以外はみんなそう思ってるんだろう。
でも助けてくれなかったらみんな同じ。


あたしの味方なんてどこにもいない。



今日だっていつも通り学校に行ったら上履きがなく机には「死ね」の文字。
おまけに花瓶まで添えられて。
コーヒー買ってこいと言われ買ったら遅いと殴られ
「やっぱり今コーヒーって気分じゃねーわー」
とせっかく買ったコーヒーを頭からかけられ
帰り際には持ち物をすべて持たされ
やっと終わったと思ったらストレス発散の道具にされ殴られ蹴られの繰り返し。
見てる人は笑うだけ。その卑しい笑い声はいつ聞いても気分が悪いものだった。

逆らうなんて考えはもうなくっていた。
逆らったら逆らった分だけやり返される。




苦しい




死ぬことを選んだのは逃げたかっただけ。





だから最後くらいは綺麗なとこで死にたくて

都会の中では珍しい空が広く見える病院の屋上を選んだ。
その病院は総合病院で内科から精神科まで広い範囲の治療ができる病院で
あたしはそこの精神科に通わされていた。
こんな所通ったって何かが変わるわけでもないのにね。
そんなこんなで侵入するのは簡単で屋上のフェンスを超える事なんてたやすいことなんだよね。

そして今に至る。
フェンスを超えた所に座って空を眺めていた。
空は好き。
空を見てる時だけは一人になれる。
誰も止めてくれる人はいないけど
いじめる人もいないから



やーな人生だったな
両親は共働きでろくに顔も合わせず
おばあちゃんはあたしが小さいときに他界。
両親があんな感じだから親戚だって一人も知らないし
いとこなんてあったことない。

まぁもう別に良いけど




もしかしたら誰かが止めてくれるんじゃないかとか0.01%思ってた自分が恥ずかしい。






そんな人どこにもいないのに






涙が零れた







もうすぐ朝になるなぁ…
...日が昇り始めたらもう行こ


目を閉じると今まで生きてきた人生が走馬灯のように流れてきた。


どれもこれも酷く何かを憎んだ思い出


それももう終わりと思うと心が軽くなったような気がして



座っていたはずのあたしは立っていた。

...明るくなってきた


…もうそろそろかな


風が吹きよろけたあたしはフェンスに捕まると
カシャンカシャンと音がした直後


「誰かいるの?」


...え?
ぱっと振り返ると
キョロキョロしている同じくらいの人がいて
手探りで進んでいる姿をあたしは不思議そうに眺めていた。

目が悪いのかな…

などと思っている間に風が吹き油断していたあたしは
小さく

「うわっ」

と声を上げてしまった。

「あれ?やっぱり誰かいるねー」

緊張感を感じさせないあの人は声のする方、あたしの方へ近づいてきた。

...えぇ!なんで来るの!?
逃げる!?って言ってもどこに逃げればいいの!!

なんてフェンスにしがみついていたあたしの手を掴んできた

...!!

「...え?なんで君フェンスの外側にいるの?」

「そんなのあなたに関係ないです。手、離してください。」

「もしかして死のうとしてた?」

「...他にここでやることでもあるんですか?」

「どうして死ぬの?」

「あなたには関係ないって...」

言い終わらないうちに


「ほんとは死にたくないんでしょ」


「...そんな訳ないじゃないですか」

「でも僕が近づいて来る間に飛び降りれたんじゃないの?」

「...」
何も言い返すことが出来なかった。

「あと、俺がいる前で死なないでよね。俺、殺人犯みたいだから。はやくこっち戻ってきて。人に迷惑かけて死にたいんだったら別だけど。」

「...」
あたしは無言でフェンスを登った。