「何か手掛かりとなりそうなものは見つかったりしてないのか?」
凉……の言葉に、私は海かなと思った。
潮の香りが、懐かしかったから。
「今来たばかりなんだから、まだないだろう?」
お爺さんの言葉に、私は何て言おうかつまった。
「えっと……あの、変に思われるかも知れないんですけど、海ってここの近くにありますか?」
目の前で涼とお爺さんお婆ちゃんが顔を合わせる。
やっぱり、何か変なことを言ってしまったのだろうか。
「あるよ、ちょっと先だけど」
涼の言葉をお爺さんが次ぐ。
「なんで懐かしいと思ったんだ? ここに、そういう関連のものはないが」
「自分の、肌から潮の香りがしました」
なんか、言ってて恥ずかしくなった。
「じゃあ、俺は海に連れてけばいいんだな、じゃあ、ちゃっちゃとご飯食べて行こうぜ。俺も忙しいんだから」
「涼は寝転がってるか寝てるか遊んでるかだけじゃない」
ものすごく、的確なタイミングで
お婆ちゃんが突っ込む。
「うっせぇな、それでも俺は忙しいの」
「もう、年月的に10年くらい……」
「人の過去の話はいいだろ」
あ、拗ねちゃった。
今の話だと、涼は見かけによらず
長い間ここにいるってことみたい。
そんな長い間、自分の記憶と離ればなれなんて
辛くないだろうか。
「ほら! さっさとお前も食え、朝陽!」
怒号が飛んできて慌ててご飯を私は食べ始めた。
呼ばれた朝陽の名前と、
私の少しとくん、となった胸だけが、
その場に浮いていた。


