「目を、覚ましたかい?」
いきなり後ろから声をかけられて
びっくりする。
振り向いたら、柔和な顔立ちのお爺さん。
「私は……誰? あなたは、誰?」
どちらも、わからない。
わたしが誰かも、あなたが誰かも。
それだけじゃない、
何も、分からない。
どうしよう。
私の中にこのお爺さんと住んでいた記憶はなくて
でも、誰と住んでいたかもわからない。
「私は……爺さんとでも呼んでくれればいい。君は」
お爺さんは、本当に少しの間だけ
考え込む素振りを見せた。
「朝陽だよ。朝の太陽の陽」
「あさ、ひ……」
多分、本当の名前じゃない。
それでもいいや、と思った。
本当の名前は、思い出せそうにもないから。


