「ありがとうございます。怪我はないです」
背中をさすってくれている婦人にお礼を言うと、口ひげを蓄えた男性が感慨深げに言った。
「しかし、騎士団の反応は早かったなあ。お嬢さんの叫び声を聞いた途端、矢のように駆けていったもんなあ」
「俺たちはちょっとの間呆然として動けなかったのに、さすが、精鋭の集まりと名高い騎士団だぜ」
「騎士団が居合わせていて、お嬢さんは幸運だったよ」
口ひげの男性の言葉を皮切りに、皆は口々に騎士団の素晴らしさを褒める。
長年続いた内戦を収めた立役者である現騎士団は、人々の誇りでもあり憧れでもあるのだ。
その上に立つサヴァル陛下への尊敬の念は、それ以上のものだろう。
集まってきた人たちは、黒衣の騎士サヴァル陛下にミルクを浴びせてしまったことは見ていないらしい。
誰も、そのことに触れないのだ。
もしもその事実を知ったら、彼らはどんな顔をするだろうか。
「でも、城に納めるものを一個失くしてしまいました……泥棒から取り戻すときに、零してしまって」
コレットが空っぽのカメを指さすと、口ひげの男性がポンと手を打った。
「それならさ、この九個から少しずつ移して十個にしたらどうだい?」
「えええ!?そ、それは……どうかと」
そんな誤魔化しをしてもいいのだろうかと目を丸くするコレットに、口ひげの男性は笑顔を見せる。


