狼陛下と仮初めの王妃



「も、申し訳ございません!!」


コレットはカメを下に置き、震える手で巾着から布を引っ張り出して差し出した。


「どうか、これでお拭きくださいませ!」

「娘……君の名はなんという?どこの牧場の者だ?」


差し出した布は受け取られずに、返ってきた声は恐ろしく冷ややかなもの。

コレットは背中が凍りつくのを感じながら、声を出すこともできず、ひたすら頭を下げていた。

陛下は噂にたがわずとても恐ろしいお方だ。そんなお方にミルクを浴びせてしまうなんて……。


「娘、頭を上げて、サヴァルさまの質問に応えなさい」


別の声に促された彼女はおずおずと頭を上げたが、陛下と目を合わせる勇気がない。


「はい。わ、わたしは、コレット・ミリガンと申します。向こうの、山の、牧場に住んでいます」


牧場のある方を指さすと、陛下はその方向を一瞥した。

そして、傍にいたメガネの騎士に何やら耳打ちをすると踵を返して去っていった。


「コレット・ミリガン。後程沙汰を申し渡すので、自宅にいてください」

「承知、しました……」


メガネの騎士に言い渡され、コレットは力なくうなだれた。

沙汰、とは……。いったいどんな罪で裁かれるんだろうか。

コレットは震える手でカメを拾い上げ、力の入らない脚をなんとか動かして荷馬車まで戻った。