狼陛下と仮初めの王妃



そのそばに寄りそうように歩く侍女も、ブラウンの髪をきっちりまとめた姿はつつましい美しさがある。

朝のまだ人気の少ない城の中、華やぐふたりはとても目立っており、見回りの騎士たちもふと立ち止まって見入るほど。

そんなふたりの横を、一台の馬車が正面玄関に向かってゆるゆると通る。

ピカピカに磨き上げられた鈍色の車体、貼り付けられた銀の紋章が朝日にあたって鈍く光る。

馭者はきちんと正装をしており、ひと目で、高貴な人が乗っていると分かるもの。

その馬車の中から、歩道を歩くコレットたちを見る黒い瞳が、スッと細くなった。


「あれはまさか……あの娘が、そうか……」


唇をゆがめて苦々しげにつぶやく声は、もちろん、コレットたちには届かない。

馬車はガラガラと車輪の音を立てながら、玄関前のロータリーに入っていく。

正面玄関前でぴたりと止まった馬車から降り立ったのは、口ひげを蓄えた細身の紳士だ。

玄関からいそいそと出てきた役人が紳士の前でスッと礼をとる。


「ミネルヴァさま、おはようございます。今朝は、お早いお着きでございますな」

「うむ、少し用があって早く参ったのだが……その前に、少々花を愛でてくるとしよう」

「は?花を、ですか」

「来る途中、珍しい花を見つけたのだよ」

「はあ……そうでございますか」


きょとんとする役人にニヤリと笑って見せ、ミネルヴァは踵を返して馬車道へ向かった。