狼陛下と仮初めの王妃



偽物婚約者として城で暮らしはじめてもう五日めになる。

初日に下りられずに泣いた階段は、今は陛下の支えも手伝って上手に下りられるようになってきた。

食事のマナーも覚えてひととおりの作法もでき、日々できることが増えていくのはとても充実感がある。

それは牧場の生活では味わえないことで、コレットはそれなりの楽しさを感じ始めていた。


食事の席では威圧を感じながらも、少しずつお話ができるようになっている。

牧場での出来事や日常の他愛無いことをぽつりぽつりと話すと、極々たまに「そうか」だの「ふむ」だのと相づちを打ってくれる。

煩いとも黙って食べろとも言われないので、迷惑ではないようだ。

でも普通ならクスッと笑ってしまうようなことでも、陛下は笑顔にならないので、ちっとも楽しんでいないようだが。

そんな会話とは言えない一方通行ばかりの朝食の席、牧場の緑の美しさを語っているとき、陛下がぽつりと言った。


「今は城の庭が美しいぞ」

「え、今なんておっしゃいましたか?」


デザートのフルーツを食べる手を止め、コレットはお茶を飲む陛下を見つめた。

短い相づち以外の台詞を言うのは、すごく珍しいのだ。


「庭を散策するといい、と言ったんだ。庭師が心を尽くしている」