狼陛下と仮初めの王妃



「陛下、おはようございます」


頭を下げると艶やかな髪がさらりと揺れ、ふんわりと広がる石鹸の香りが陛下の鼻をくすぐる。

覚えたての作法で挨拶をする彼女を見て、陛下は少し口角を上げた。

ひと睨みで飛ぶ鳥を落とすような狼の眼差しが、少しだけ和らいだ瞬間。

彼女の今日のドレスは、クリームイエローでレース飾りの少ないシックなもの。

それがスタイルの良さを引き立たせており、なんとも美しい。

しずしずと歩く姿と丁寧な所作は、とても牧場の娘だとは思えず、どこから見ても貴族の令嬢のよう。

アーシュレイの教育の賜物である。


「おはよう。ふむ、随分上達したな」


まさかの誉め言葉に驚き、コレットの胸がトクンと鳴る。

アーシュレイに叱られて、ときに涙しながらも、がんばった甲斐があるというものだ。


「ありがとうございます!たくさん練習しましたから」


うれしくて、コレットは心からの笑顔を向ける。

青い瞳をキラキラさせてほんのり頬を染め、はにかんだ笑顔は初めて見せるもの。

すると陛下は、わずかに目を見開いた後、ふぃっと顔を反らしてしまった。


「……行くぞ。」


いつもと変わらない単調な声で腕を差し出され、コレットはそっと手を預けた。