狼陛下と仮初めの王妃



今ふたりがいるのは、最上階にある小さめの部屋。

椅子が二脚と小さなテーブルがひとつあるだけというシンプルさで、場所的に言えば陛下の部屋のお隣である。


「では、これから式までの大まかな予定を言います。頭に叩き込んでください」


アーシュレイはメガネをギラリと光らせて微笑むから、コレットは真剣な表情で大きく頷いた。


「まずは、陛下たっての強いご希望により、歩く練習を重点的にします。それから食事や挨拶などの作法全般。さらに、ダンスも覚えてもらいます」

「えええ!?ダンス!?って、あの、偽物の王妃なのに、覚えないといけないんですか!?」

「当然です!偽の王妃とはいえ、社交の場に出ることもあるのです!ダンスくらいできないと、あなたが困りますよ?」


左手を腰に当て、右手でメガネの蔓を持ち、アーシュレイはずいっとコレットに迫った。


「そして、なによりも、陛下の恥になるのです!」


ふんっと鼻息の荒い彼のあまりの迫力に、コレットは無言のままこくこくと頷く。

けれど、ちょっと待って?と思う。

そういえば、偽物王妃となる期間を教えてもらっていない。