狼陛下と仮初めの王妃



鏡の中のリンダの眉が下がり、心底申し訳なさそうな顔になる。

大きなクローゼットにチェストがふたつ、それにベッドとドレッサー。

これだけあれば、コレットにはすべて揃っているように思う。

これ以上なにを入れるのかと首を捻ると、リンダは笑顔になった。


「ですが、ご安心くださいませ!婚姻を結ぶ日までには、なんとしても揃えますから!」


リンダは目を輝かせて断言する。

彼女はコレットが牧場の娘で、お沙汰でこの場にいることを知っているのだろうか。

それとも全く知らず、陛下の本物の婚約者だと思っているのだろうか。

コレットはどう答えればいいのか分からず、曖昧に微笑んで見せた。


リンダはコレットに好きな色や食べ物に関して問いかけてくる。

話をしていてもリンダの手はくるくると動きまわり、鏡の中の姿がどんどん変わっていく。

その様子を、コレットは半ば信じられない気持ちで見つめた。

ミントブルーのドレスを着た自分の姿はとても華やかで、意外にもよく似合っている。

肌にはパフパフとおしろいが叩かれ、唇にはうっすらと紅がさされる。

普段は洗っても櫛を通すだけだった髪は、花の香りのする髪油が塗られてとても艶やかになり、どこから見ても貴族の令嬢のよう。

これならば、黙って立っていれば身分の低さなど誰にもばれないかもしれない。

“容姿の美しさ”を見込まれたとメガネの騎士が言っていたのを思い出す。

よく見れば、リンダ自身の髪と肌もよく手入れされているようで、とても美しい。

やっぱり侍女といえども、城に上がれるのは、綺麗な人でなければ駄目なのだと思うのだった。