狼陛下と仮初めの王妃



やがてたどり着いたニックの牧場は、たいそう美しいところだった。

牛がのんびりと草を食み、穏やかな風が吹き渡る。

ここだけは、時間がゆったりと流れているようだ。

コレットの魅力のひとつであるのんびりした部分は、おそらくここで培ったものだろう。

食事の席ではよく牧場のことを語っていたのを思い出し、ふとサヴァルの口元が緩む。

確かに、いいところだ──。


「あちらの建物におられるようです」


リンダが指し示す方に、大きいが簡素な建物がある。

腰に付けていた剣を騎士団長に預ければ、真顔で「ご幸運を!!」と言うから、ますますサヴァルの緊張感が高まった。

“恐れを知らぬ狼の騎士”

“猛る獣もひと睨みで腹を見せて降伏し、屈強の男も気絶する”

巷でそう噂されているとサヴァルも知っているし、半分はその通りだと自覚している。

だが、コレットがどう反応するか不安で心が震えている今は、捨てられた子猫よりも弱いと思う。


近づくにつれ、中から箒で地面を掃くような音が聞こえてきた。

入り口から一歩中に入れば、コレットが懸命に掃除をしている。

木綿のワンピースを着て豊かな髪をふわふわ揺らす姿を見、考えるよりも先に体が動いていた。

体の芯から沸き上がってくる例えようもない歓喜は、不安など吹き飛ばしていた。

後ろからふわりと抱きしめると、華奢な体がわずかに震えた。