『陛下、これは天から与えられたチャンスですよ。生かさぬ手はありません』


民を騙して利用するのは不本意なこと。

却下しようとするサヴァルに、アーシュレイは真顔でしれっと言った。


『ならば妃教育をし、そのまま迎えてしまえばいいでしょう。どのみち妃は必要なんですから』と。


口で言うのは簡単なことだが、実際に上手くいくのか。

半信半疑で、なんの期待もしていなかった。

容姿の美しさと正直さと、ほんの少し香る上品さを見込んだだけのこと。

歩くのが下手なのには辟易したが、偽の王妃としてドレスを着ていてくれればよく、反抗勢力をあぶり出せれば成功。

アーシュレイはそのまま妃にすればいいと言ったが、表向きは『病気療養』としてすぐに解放するつもりでいた。

覚悟も教養もない庶民を、王妃にすることはできないのだ。


「それが、こんなに手放しがたい存在になるとはな。まったく想定外だ」


サヴァルは貴族ではない。

これから築いていく王家のとしての未来を考えれば、国内の貴族令嬢を妃にするのが妥当だと重鎮共は口を揃えて進言してきた。

国と貴族方との結びつきが強固になると。

事実、サヴァルとしても唯一の弱みである部分を補えるならば、相当の教育を施された上流の嗜みを持つ者を迎えるのがよしと考えていた。

反抗勢力に通じてさえいなければ、夫婦間に愛など必要ないとも。