狼陛下と仮初めの王妃



「君は、決してお荷物ではないぞ」

「え、でも……わたしは足が遅いですし、戦えませんし。迷惑をかけています」

「違う。それは当然のことだろう?」


陛下の手が、コレットの背中を撫で上げる。

大きな手のひらにすっぽり隠れてしまいそうに細い腰。

強い力で抱きしめれば、折れてしまいそうに細い体だ。


「君は、私が守るべき者であり、私の大切な者だ。以前肌に印をつけたのも、大切に思うがゆえのことだ。それは、分かるな?」

「はい。わたしを、守るため……です」

「そうだ。私は、君を守るためならば、なんでもするつもりだぞ」


まっすぐに見つめる陛下の瞳は熱く、言葉はコレットの胸に深く響く。

コレットだって陛下を大切に思う気持ちは負けていない。

もしも明日陛下の身に危険が及べば、身を呈してでも守りたいと思う。


「さあもう寝るぞ。明日は早く出発するんだ。君は、私の肩にもたれるといい」


壁にもたれて座ったまま眠りに就く。

コレットの肩を抱き寄せている陛下は、すでに寝息を立て始めている。

騎士の彼は、どんな状況でも眠れるのだろう。

対してコレットはなかなか眠ることができず、こっそり陛下の寝顔を見た。

いろいろな表情を見せる宝石のような紫の瞳は、今は瞼の中。


『大切に思うがゆえだ』


あんな言葉をもらえるとは思っていなかった。

スッと通った鼻筋の下にある、形のいい唇。

この唇が、先日の夜、肌に赤い印をつけたのだ。

コレットはそっと、その唇に触れてみた。

柔らかくてあたたかいそれが、もしも自分の唇に触れたら、どんな気持ちになるのだろう。

自分から触れてみようか。

ふとそう思ってしまい、いけないことだと自分を戒める。

本物王妃ならばいざ知らず、国王陛下相手になんて大胆なことを考えるのか。

コレットは陛下の肩にもたれて目を閉じ、無理矢理眠りに就いた。