狼陛下と仮初めの王妃



陛下に肩を抱かれており、床は硬くて冷たいけれど、コレットの心はぽかぽかと温かい。


「今ごろ城では、私と君が帰らないと、皆で騒いでいるだろう。アーシュレイが動き始めているはずだ」

「襲って来たのは、山賊でしょうか」

「いや、おそらく裏山の連中と同じだろう。矢を射ってきたからな」

「え!?」


がばっと頭を上げたコレットの目の前に、落ち着いた陛下の目がある。


「だから、やむなく森の中へ逃げたんだ」


木を盾にしながら馬を走らせて敵を巻いたのはいいが、山で夜を明かす羽目になってしまったと、陛下は謝る。


「いいんです。陛下が無事なら、わたしは、それでいいです」


コレットは、無意識に陛下の頬に手を伸ばしていた。

精悍で無駄な肉がない陛下の肌は無傷。

百戦錬磨で経験豊富な彼の弱点は、なにもないように思う。

強いて言えば、今コレットが一緒にいることだろうか。

ひとりならば、今ごろ森を抜けていたに違いないのだ。


「陛下。わたし、明日はお荷物にならないように、がんばります」


手を引っ込めつつ、そう言って陛下を見上げれば、大きな手のひらが頬に触れた。


「君はなにを言っている」


語気は強く、陛下の眉間にしわが寄っていて、何故だかすごく怒っている。