狼陛下と仮初めの王妃



コレットは落ち着かない心持ちで部屋の中を見回した。

『ここで待っていてください』とメガネの騎士に言われて入れられたのは、とても広くて豪華なお部屋。


てっきり謁見の間に行くものだとばかり思っていたのに、あまりに見当違いなことばかりで、これからどうなるのか予想できないでいた。


部屋の真ん中には革張りのソファセットが置かれていて、猫足のチェストがひとつある。

床にはふかふかなえんじ色の絨毯が敷かれてあり、うっかり躓いて転んでもかすり傷ひとつ負いそうにない。

壁には美しい花の絵画が掛けられ、金の刺繍の施された重厚なカーテンが窓を覆っていた。


コレットはどこにいればいいのか迷い、とりあえず廊下側の壁際にぴったりくっつくようにして立っていた。

すると、廊下から硬質な足音が聞こえてきた。

それは早いリズムのもので、数人分の足音と思える。

それがこの部屋の前でピタッと止まり、コレットの緊張が一気に高まった。

キィと蝶番の軋む音がして、内開きの扉が大きく開いた。

飴色の扉の向こうから姿を現したのは、黒い騎士服を身に纏ったサヴァル陛下とメガネの騎士だ。

陛下は部屋の真ん中まで歩いていき、くるっとコレットの方を向いて怪訝そうに首を傾げた。