狼陛下と仮初めの王妃



陛下の後について歩くコレットの瞳が不安に揺れる。

木の向こうでカサッと音がするだけで、ビクビクしてしまうのだ。

音の正体は、小動物だったり鳥が小枝を揺らしたりしたもの。

普段ならば気に留めないが、敏感になっている今は、音がするたびにドキッとして陛下の服をぎゅっと握っていた。

叫び声だけは出さないように唇を固く結び、精いっぱいにがんばっている。

すると服を掴んでいる手が解かれ、コレットは陛下の腕の中に入れられた。

すっぽりと体を包まれて、とても安心できてうれしいが、今は甘えるわけにいかない。


「……陛下、駄目です」


敵の襲撃に備え、彼の両手を塞いではならないと考えるコレットは、逞しい腕を押し退けようとした。

けれど、陛下はコレットを離さない。


「震えていただろう。無理をするな」

「でも、もし敵が来たら……」

「大丈夫だ。君は、私を信じていればいい」


力強い言葉が、コレットの胸に浸透していく。

陛下には、周りを警戒しながらも、コレットを気遣える懐の深さがある。

普通ならばピリピリと尖った気を放っているだろうが、そんなものを感じさせない。

狼のような強さだけじゃない。彼が騎士団長になり国王にまでなった訳が、コレットには分かる気がした。


「それなら、わたしが手綱を持ちます」


コレットは馬の手綱を渡してもらい、陛下の腕に甘えた。