狼陛下と仮初めの王妃



尖った枝が頭の上を掠めてギョッとし、柔らかい木の葉がピシピシと服にあたって身をかたくする。

猛スピードで駆ける馬は、太い木の幹に向かっていく。

どんどん近づくが陛下は避ける素振りがない。

幹が目前に迫り、ぶつかる!と思った瞬間、ひらりとかわした。


「うおっ」

「なんだ!?」

「うがあ!」


後を追っていた敵はどうにも避けられず、ぶつかって派手に倒れている。

後続も倒れた馬を咄嗟に避けられずにつまずく。

そんなことを繰り返して敵を減らしながら、陛下の馬は走りに走る。

敵馬のいななきと叫び声が森中に木霊し、驚いた鳥たちがバタバタと飛び立った。


「もう少しの我慢だ。がんばれ」


コレットは陛下に言葉をかけられるが、あまりのスリリングさで声も出せず、ただうなずくしかできない。

両手が使えるようになった陛下の華麗な手綱さばきは、想像を遥かに超えていた。

けれど不思議と恐怖はない。

陛下なら失敗しないという、揺るぎない信頼があるのだ。


やがて敵を振り切り、馬はスピードを緩めて止まった。


「ここは、どこの山ですか?」


窮地を脱してホッとするも、見渡す限りの木立で、奥深くに迷い込んでしまったよう。

近くに川があるのだろう、小さなせせらぎが聞こえてくる。


「ここはまだ東の領地の中だ。しばらく馬を休ませるぞ」