馬は懸命に走っているが、次第に敵の蹄の音が大きくなってきた。
怒声とも掛け声ともとれる荒くれた声が、極至近距離から聞こえてくる。
コレットが震えながらも様子を見ると、陛下の体の向こうに茶色い馬の鼻先がちらちら見え隠れしていた。
もう、すぐそこまで迫ってきている!
このままでは捕まるのは時間の問題。
金品狙いの山賊か。それとも裏山で襲ってきた敵か。
もしも剣を持っていたら。
もしも弓矢を持っていたら。
陛下は今、短剣しか持っていない。
大人数を相手に闘うには、すこぶる不利な状況だ。
だったら、逃げきるしかない!!
コレットは陛下の体に腕をまわし、ぎゅうっと掴まって目をつむった。
きっと陛下は、片手だから手綱操作がしづらくて、思いきりスピードが出せないのだ。
「気遣い無用です!どうぞ両手を使ってください!」
「よし。ならば、絶対に手を離すんじゃないぞ!」
一瞬の間の後コレットの体を支えていた陛下の腕が離れて、ぐんとスピードが上がった。
耳元で風がうなり髪が乱れる。
飛ぶように走り揺れが激しくて、力の弱いコレットは馬から振り落とされそうだ。
それでも一生懸命しがみついて堪えていると、耳に届く音が急に変わった。
硬かった蹄の音が柔らかくなっていて、葉が擦れるような音もする。
コレットが薄目を開けてみれば、馬は道から大きく外れており、木々の間を縫うようにして走っていた。


