狼陛下と仮初めの王妃



長年胸につかえていたものを解放したリシェルの笑顔は、すこぶる晴れやかだ。

そんな彼女に、コレットは禁じられた書物についてこっそり訊いてみた。

するとリシェルは「まあ、そのことですか」とクスッと笑う。


「あれは、魔術の書ですわ」

「魔術……って、本当にあったんですね。お話の中のものだと思っていました」

「それは無理もないですわ。ずいぶん昔に魔術は禁じられて、廃れていますもの。存在自体、王家しか知りません。書は歴史の記録として残してあるのでしょう」

「そうなんですか」


さすが先の王妃だ、よく知っている。

コレットが感心してうなずいていると、陛下に肩を抱かれた。


「今日は、君の謎がいっぺんに解けてよかったな。さあもう城に帰るぞ」


車輪付きの椅子に座って笑顔で手を振るリシェルと、頭を下げる侍女に別れを告げ、ふたりは帰路に就く。

その途中の山道で、陛下は急にコレットの体を強く抱き寄せた。


「馬を走らせるぞ。君はしっかり口を閉じていろ」

「へ?」


コレットが口を閉じる間もなく、馬は駆け出していた。

背後からたくさんの馬が駆ける音が聞こえてくる。

振り返る勇気はないが、馬の手綱を握る陛下の緊迫した様子から、追われていることは分かる。

コレットは陛下の邪魔にならないよう、ぎゅうっと身を縮めた。