狼陛下と仮初めの王妃



最上階にある王妃の部屋。窓際のひじ掛け付の椅子に座り、コレットはハンカチに刺繍をしている。

開け放った窓から吹き込む風で豊かな髪がサラサラと揺れるたび、首筋にあるふたつの赤いあざがチラチラとのぞく。

つけられた翌朝に、「きゃーっ」とうれしそうに頬を染めたリンダに意味を聞かされ、赤面したコレットは部屋から出るのを控えることにしていた。

だって、ミネルヴァにばったり会おうものなら、どんな嫌味を言われるか分からないのだ。

純真無垢なコレットには、とても言い返す言葉が思いつかない。

おかげで食事のとき以外は、最上階から動くことなく過ごしている。

まじないをかけた陛下の思惑通りである。


今はエドアールが滞在中のため、王妃としての仕事はお休み。

コレットは針を刺す手を止めて窓の外を見やった。

陛下は毎日エドアールと一緒に出掛けており、滞在三日目の今日は市場の視察に行っている。


『いいか。城は警備が手薄になる。何をするにも、気を付けるんだぞ』


陛下が言っていた通りに城の敷地内には騎士の姿が見えず、城で働く役人たちはいるがいつもより静かに思える。

鳥が空を飛び、爽やかな風が緑を揺らす様はとても平和で、警備が薄くても何事も起きる気がしない。

少しくらい動いても、城から出なければ大丈夫そうだ。

コレットは、ふと思い立って宝箱を取り出した。

貝細工の美しい箱の小さな鍵穴に、これまた小さな鍵を差し込む。

ぱかっと蓋を開け、中を見たコレットの体が固まった。