狼陛下と仮初めの王妃



コレットの顎のあたりをじっと見つめたまま動かない陛下は、唇を引き結んでいる。

なにかを迷っているような、難しい考えごとをしている感じだ。


「陛下、まだ心配事があるんですか?」

「まあ正直、今現在、まったく面倒なことになっていると言える。……まあ、仕方がないことだが」

「へ?」

「前に書庫で、手に入れたいものがあると、君に話したのを覚えているか?」

「はい、確か、神秘的で、強引に手に入れようとすると壊れるものでした。それは、どんなものですか?」

「そうだな、例えるなら一輪の花だ。手折ればすぐに枯れてしまうだろう?なかなか悩ましくて、眠れない夜があるくらいだ」

「……そんなに、ほしいんでしたら、思い切って折ってみたらいいと思います。案外丈夫かもしれませんし、水を上げれば長持ちします!」


例え話で確信はないが、悩まし気な陛下を励ますように力強く言うコレット。

そんな彼女を組み敷きつつ、陛下はクスッと笑った。

その瞳がなんとも妖艶で、コレットの胸がトクンと鳴る。

こんな表情をさせるのは、いったいどんなものなのか。


「強引にしてもいいのか?……いや、まあ、考えておく。話をしたら少し気が紛れた」


スッと横に沈んだ陛下の腕の中に華奢な体が入れられる。

いつものことで、ときめきながらもコレットの気持ちが落ち着いていく。

あたたかくて逞しい胸に顔を埋め、おやすみなさいと声をかけて眠りに就いた。

陛下の規則的な心音を聞きながらまどろみに落ちていく中、「まったく、悩ましいもんだな……」とつぶやく陛下の声が聞こえた気がした。