狼陛下と仮初めの王妃



そう言いながらずいっと近づいた彼の表情は変わっていないけれど、声が一段低くなっている。

なんだか分からないが怒っているよう。

迫力がありすぎて少し距離を取りたいところだが、コレットの手は陛下の手のひらの中に収まったまま。

動こうとすれば逆に引き寄せられてしまう始末で、コレットは目を瞬かせながらも、おそるおそる尋ね返した。


「あの……なんでしょう?」

「夜会のとき、エドアール王太子と、どこでなにを話していた?包み隠さず話せ」


語気は強く、紫の瞳は体を貫くかのように鋭い。

その急な変化に戸惑いつつも、コレットは言葉を探した。


「えっと……あのときは、テラスで、その……」


コレットは、瞳を空にさまよわせた。

ユーリス王の死の謎について、などと話してもいいのだろうかと迷う。

エドアールが“身辺に気を付けるように”と陛下に直接忠告しなかったのは、なにか理由があるはずなのだ。

国としての体裁とか、王太子の立場とか、コレットには難しいことはまったく分からないが。

「えーっと?」などと口ごもれば、陛下は「どうした、はっきり言えないのか?」と、地の底を這うような迫力の声で言う。


「せ、世間話です。エドアールさまの、子どもの頃のこととかです!」

「それが、テラスでふたりきりになって話すことか?君が、彼を誘ったんだろう。彼に興味を持ったのか?」