狼陛下と仮初めの王妃



陛下の紹介を受けたエドアールは、テノールの声を響かせて優雅に挨拶をする。

にこりと白い歯を見せる王太子の爽やかさは、陛下に負けずにご令嬢たちの心を奪った。

エドアールが礼をとって挨拶を締めくくると、今度は、陛下が迫力のあるバリトンの声を大広間に響かせる。


「隣国の王太子を招いてこのような会を開くことができるのは、ガルナシアにとって大変喜ばしいことだ。皆、今宵は大いに楽しみ、互いによく親交し、友好を深め合ってくれ」


楽師たちによって軽やかな舞踏曲が奏でられ、大広間は一気にざわめいた。

軽い料理と葡萄酒が振る舞われて、中央では若いカップルたちがダンスを披露する。

大広間の中は、明るく楽しい雰囲気で満ちていく。


そんな中、コレットは陛下の隣で皆に笑顔を見せつつも、心の中はもやもやとしていた。

エドアールの言葉が気になって仕方がなく、彼ばかりを目で追ってしまう。

庭園で言われたことを陛下に話すべきだが、どうにも漠然としていて、このままでは一笑に付される可能性がある。

だって、陛下は今でも十分に、自分の身辺に気を付けているのだ。

けれど、エドアールの言ったことはもっと深刻なものに思える。

だからもっと詳しく聞きたいと思い、夜会にはその機会があると考えていたけれど……庶民であるコレットの目論見はものすごく甘かった。

彼エドアールはご令嬢や貴族たちに囲まれていて、とても話しかけにくい状態。

それにコレット自身も陛下の手によってがっちりと捕まえられているし、挨拶に来る貴族方にしっかり応対せねばならない。

立場的にも物理的にも陛下の隣から離れられないでいる。

じりじりしながらも笑顔を作って皆と話すコレットの目に、ミネルヴァ夫妻の姿が映った。