そんな中、大広間の一番奥にある王族専用の両開きの扉が開かれた。
陛下が妃をエスコートして現れ、さざなみのように話し声が止んでいき場が静まる。
楽士が奏でる穏やかな旋律だけが大広間に響く中、黒の正装を着た陛下と淡い紫色のドレスを着た王妃が上座の中央まで進んでいく。
大広間にいるほとんどの貴族たちは、王妃はもちろん、陛下も間近で拝見したことがない。
即位の後も内戦でボロボロになった街の整備で忙しく、庶民が苦しんでいるのに華やかな会などもってのほかだと、即位祝いの会は開かれなかったのだ。
眼光だけで大の男が気絶すると噂の狼陛下は、威厳があり冷たく見え、確かに近寄りがたい空気をまとっている。
それに反して容姿の麗しさはご令嬢たちの目を奪うもので、皆声も出さずに陛下に見とれていた。
その中に、ミネルヴァの娘であるナタリーもいる。
「ね、お父さま。あのお方が、本当にサヴァル陛下なの?とても素敵だわ」
頬を染めてため息交じりに言う愛娘に対し、ミネルヴァは満足そうに「そうだろう?」と言ってニヤリと笑った。
ナタリーは、いくらミネルヴァが勧めても、怖いばかりの陛下の側室になるのは嫌だと言っていた。
王妃になれないなら、公爵家の奥方になって一番に愛されたい。
その方が数倍幸せになれると思っている。
けれど間近で陛下を目にして、ころりと気が変わっていた。


