狼陛下と仮初めの王妃




ぶるぶる震えながらもコレットの前に立つアリスを見て、使者のメガネがきらりと光る。


「彼女のしたことは侮辱罪に抵触します。償わねばなりません。簡単なことです。順調にいけばすぐに帰れますよ」

「アリスおばさま。どうか、退いてください。すぐに帰れるそうですから」


首は飛ばないみたいですと耳打ちし、コレットは優しいアリスの背中をそっと押して、メガネの騎士の前に進み出た。


そして、騎士の馬に乗せられて行き、大きな城門を潜る。

夜の闇に浮かぶ白亜のガルナシア城は、とても静かで不気味にさえ思える。

まっすぐ向かうかと思われた馬は城から離れ、城壁近くにある教会ほどの大きさの建物の前で止まった。


「陛下に会う前に、ここで、少々準備をしていただきます」


馬から降ろされたコレットの頭の中に疑問符が浮かび上がる。

沙汰を言い渡されるだけなのに、いったいなんの準備がいるのだろうか?

メガネの騎士は建物の扉を開けて「よろしく頼みますよ」と中に声をかけ、コレットひとりが押し込まれた。

真っ暗な建物の奥から、ゆらゆらと揺れる炎が徐々に近づいてくる。

コレットの前に来てスッと頭を下げたのは、燭台を手にした、上等な身なりの初老の紳士だった。


「こちらへどうぞ」

「……はい」


訳が分からないながらも後についてしばらく歩くと、初老の紳士がぴたりと止まって扉を示した。


「中へどうぞ」


そう言われて恐る恐る扉を開けると、部屋の中のまぶしさで目がくらみ、瞬きを繰り返した。


「あら、とても綺麗なお嬢さまですわ」


嬉しそうな感じの女性の声がし、コレットの頭の中の疑問符が大きく膨れ上がる。

明るさに徐々に目が慣れた彼女が見たのは、ひとりの若い侍女と、ほわほわと湯煙の立つ大きなお風呂だった……。